不倫相手への離婚慰謝料を否定した最高裁判例について

夫婦の一方(夫)が、他方(妻)と不貞を行った第三者(不倫相手)に対し、

離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったと主張し、

不倫相手に対し離婚に伴う慰謝料の支払を求めた事案について、

昨日、「特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」として、

夫の離婚慰謝料請求を否定した最高裁判例が出されました(平成31年2月19日付け最高裁判決)。

 

この事案については、最高裁判例が出る前からネットニュースで話題となっておりましたが、

率直には、

「なぜ、不倫相手に離婚慰謝料?」、「不貞慰謝料ではなくて?」との印象でした。

 

報道によれば、妻と不倫相手との不貞行為が、

損害及び加害者を知ったときから3年を経過しており、

消滅時効(民法724条前段)にかかっていたため、

夫は不倫相手に離婚慰謝料の支払を求めたようです。

おそらく、夫の代理人弁護士が知恵を絞り、

離婚慰謝料を求めるための理論構成をし、提訴に及んだのだと思います。

 

上記最高裁判例の判断・結論については、

一般の方の中には、「不倫相手のヤリ得ではないか」との見方もあるかもしれませんが、

私は妥当だと思います。

 

判決理由にも挙げられているように、

離婚は本来夫婦間で決められるべき事柄と思いますので、

不貞行為と離婚との間に因果関係を欠くと思われます。

 

また、上記最高裁判例の事案を読むと、

妻と不倫相手との不貞関係が解消してからも、

夫と妻は約3年11か月もの間同居生活を続けており、

妻と不倫相手との不貞関係が解消してから約4年10か月後に夫と妻が離婚に至っています。

むしろこの点が決定的だったと思います。

さすがに、不貞関係解消時から同居生活を4年近くもの長期間続けていたのであれば、

不貞行為により離婚を余儀なくされたとはいえないと思います。

 

一見すると、不貞をされた配偶者側に不利な結論・判断と思われますが、

おそらく、

「不貞をされた配偶者側としては、

不倫相手に対し不貞を理由とする不貞慰謝料を求めることは可能であった。

にもかかわらず、不倫相手に対する権利を行使せず、

消滅時効にかかってしまったのだからやむを得ない。」

という価値判断も影響しているのではないか、と思います。

 

最高裁判例を学習していくと、

いわゆる「手続保障と自己責任」の視点・価値判断を読み取ることができます。

すなわち、

権利を行使する機会があった。

また、権利実現のための手続が保障され、攻撃防御を尽くす機会があった。

にもかかわらず、権利行使の機会を放棄した、

また権利実現のための手続を利用しなかった、

あるいは、権利実現のために攻撃防御を尽くしたのだから、

そのことに伴う不利益を甘受してもやむを得ない。

ということです。

 

夫としては、消滅時効にかかる前に、

不倫相手に対し不貞慰謝料を求めるべきであったのにそうしなかったのだから、

消滅時効に伴う不利益、

具体的には、不倫相手に対し不貞慰謝料を請求できなくなることになってもやむを得ない、

という帰結になります。

 

上記最高裁判例の結論を踏まえ、今後どのように対応していくべきかについてですが、

私の場合だと、今後「不倫相手に対し離婚慰謝料を求めたい」旨の相談を受けた場合には、

「まずは、不倫相手に対し不貞慰謝料を求めるべき」とアドバイスすることになると思います。

 

その上で、相談者から「なんとしても不倫相手に離婚慰謝料を求めたい」旨の

要望が出たらどうするかですが、

例えば、

「上記最高裁判例は、妻と不倫相手との不貞関係が解消してからも、

夫と妻は約3年11か月もの間同居生活を続けており、

妻と不倫相手との不貞関係が解消してから約4年10か月後に夫と妻が離婚に至った事案である。

そうすると、不倫相手との不貞関係が継続中に夫婦が離婚した場合

又は不倫相手との不貞関係の解消直後に夫婦が離婚した場合については、

上記最高裁判例の射程は及ばない(上記最高裁判例の適用はない)」

という理論構成をしたうえで、

相談者からの事情聴取及び訴訟での主張立証を行い、

上記最高裁判例の判断を争っていくことになると思います。

(但し、そのハードルは高いですし、

 裁判所から、不貞慰謝料で十分では?と言われてしまいそうですが・・・。)。

 

弁護士 高橋 裕

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